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臨床美術の実際1:認知症を予防する

認知症の予防教室は、
行政の介護予防事業として開催されるケースが主流です。

症状改善を目指すクラスと比べて、
定員が20~30名と大人数のクラスも設定されています。

当協会では、
認知症予防教室を「脳が目ざめるアート塾」と題して推進しています。

教室参加者と自治体担当者の声を紹介します。

自治体予防教室参加者の感想文(抄)

7月2日、(臨床美術の)予防教室へ初めて行きました。

受付へ行きましたら、若い人達ばかりで
年寄りは私一人なので不安になりました。

まず先生のご挨拶があって同じテーブルの人たちと握手を交わしました。
少し心が落ち着きました。2回目からも握手からはじめました。

第1目はなすを描きました。なすを縦に2つに切ってください、
そして匂いを嗅いで下さいと云われ、驚きました。

85歳の今までなすの匂いを知らなかったのです。

煮てよし、焼いてよし、漬物にしても揚げてもおいしい、
なす紺色の美しいなすの匂いを気がつかなかったとは
我ながらおどろきでした。

たしかにきゅうりやほかの野菜のやうなさわやかな匂いではないが、
地味な匂いがありました。

そして内がわから外へ色づけしてゆきました。

新聞紙でパイナップルを作ったり、Tシャツへ絵を描いたり、
時間までに仕上げなければならないので一生懸命やりました。

でもとても楽しく学ぶことが出来ました。

石膏でえびを作り、型からはずす時、
一つ一つ拍手でえびの誕生を祝いました。実に感動的でした。

あと2回で終わりになりますがどんな楽しい勉強になるか楽しみです。

目に見えない声、音、匂い、温度、風などを
思いのまま感じたままを表すことをはじめて学びました。

少し視野が広くなったやうに思います。

残り少ない人生を明るく最後までぼけないで
一日一日を大切にすごしたいと思います。 本当にありがとうございました。

(84歳・女性)


自治体予防教室参加者の感想文(抄)

市の広報誌とチラシで受講者募集を見ました。

参加者対象の所に確か年令60歳以上とあり、
私は対象年令に少し足らず参加できないと思いましたが、
チャンスをいただきました。

私は介護経験があり、10年前から認知症に強く関心を持っております。

美術療法は、認知症の方にとても効果のある療法の一つであることは、
以前から聞いていました。

私自身は、絵を描くのは好きではありませんでしたが、
この療法がどのような手法を使うのか、
右脳の刺激はどんな効果があるのか知りたかったのです。

講座は9回で、第1回は左右の脳の話。

毎回、テーマと技法を変え、
脳への刺激と作品の完成に対する感動の連続でした。

今までに見たことのない、いろんな本物の画材と画具を使って、
テーマの物を見て、今の素直な思いを感じるままに表現するのです。

1回目、2回目、続けていけるのか不安に思い、3回目欠席。
4回目、欠席したことを後悔。
そしてその後は全部参加しました。

それは、毎回違うテーマと画材に、
不思議に集中してできるようになったからです。

後半のころは、脳に刺激になっているのが、
はっきり自分で理解が出来ました。

毎回何とか自分の作品を完成できました。

受講生の皆さんの作品ができると全員の作品の鑑賞がありますが、
同じ物を描いたり、作っても、その人それぞれの心の思いが違うので、
いろんな作風に驚きました。

作る人の年令と人生が作品の色使いや形に表現されるみごとな作品の数々。

皆さん素晴らしい芸術家たちに変身されるのです。

参加された方々は、その時間を自然体で、大切にされ、
みごとな作品を作られ、どなたの顔も集中された後の美しい笑顔。

この講座は仲間との出会い、グループでの思いやり、ふれあいの数々。

毎回作品を作るまで若い先生とスタッフの方々による
「日本のことば」のやさしい心の響きのあるほめことばに、
ふと、日ごろ忘れていた相手への思いやりの「ことば」に心を洗われました。

また、忙しい毎日の中で毎週一度の講座は、
私にとっての午後の癒しのひと時でもありました。

この講座を企画してくださったことに感謝と
これからのこの講座へ多くの方々が参加されることを期待いたします。

(55歳・女性)


地方自治体担当者の講演(抄)

絵を描くことがリハビリになるのかと半信半疑でしたが、臨床美術は普通の絵画教室とは全く異なるアプローチで、制作が進むにつれて、本人の表情がいきいきとしてくるのが見て取れました。

かねてより介護予防・認知症予防ということで関心があったわけですけれども、いろいろな文献とか資料で勉強していた時でした。

右の脳と左の脳があって、どうも右脳を活性化すれば認知症予防になるという記事と出会いました。

五感を使って体験したものは、右脳の活性化に非常にいいということも、いろいろな文献等で知っていました。

たまたまその頃に新聞記事と雑誌で、芸術療法(臨床美術)記事を発見しました。

パッとその時にひらめいて、早速、造形研究所へ電話をしたわけです。

認知症対策に非常にいいというのは、それまでの知識から何となくわかりました。

しかし、これを私どもの事業としてやるにはどうすればいいのか、まったく見当がつかなかったし、もちろん、その時には補助金の対象になるかどうかもわかりませんでした。

私事ですが何にでも興味を持つ性格のおかげで、自分でまず体験をしてみて、いいものならやればいいと、思い切って、既に臨床美術による予防教室を実施していた鎌ヶ谷市と土浦市に照会をし、芸術造形研究所に指導をお願いしました。

教室をまずやりましょうという話になり、私自身も実際に体験をしてみました。

その結果が、これまで実施してきた3年間の取り組みになったのです。

初年度は、どのようにやればいいのかわからないものですから、とにかく予防クラスをということで、一般市民を対象に公募をしたところ2クラスが実現し、私もスタッフとして参加をさせていただきました。

講師の先生がまず何をするかというと「紙に今の気分を描いてください」とおっしゃいます。

気分を絵に描くというのは、どうしたらいいのか。

私など絵を描くというと家を描いて、庭を描いてと、具体的なものを思い浮かべますが、そうではなくて抽象画を描くということですから、最初はどうしていいかわからない。

次に(モチーフの)匂いをかいで「香りを絵にしてください」と。何をおっしゃっているのか、よくわからない(笑い)。

しかし、話を聞いていくうちに、このようにイメージや感覚で創作芸術をやると、自分にないものを発見したり、違う感覚で物事を見られるようになるということがわかってきました。

絵以外にも染色や工作をこれまでとは全く異なる手法でやりました。

参加者のアンケートを見ましても、全員、臨床美術に触れた驚きと感動を書いているのです。

皆さんがこういうものをやりたかった、自分にないものを発見した、さらには、生きがいづくりになったという声ばかりでした。

2カ月ぐらいの間でしたけれども、その体験を踏まえて、「これだ」と思いました。

これまでにない新しい発想で、しかも、私自身の感覚で何かしら効果があると感じたわけです。

[日本臨床美術協会公開セミナー記録(2004年)より]